ごいちです。
今回は近年自動車以外の業態にも急速に浸透しつつある、残価設定型のローンについて説明していきます。
始めに結論から言います。
元自動車営業マンの立場として断言しますが、
残価設定型クレジット(通称残クレ)は、殆どの人にとっては絶対に組まない方がいいローンのうちの一つです。
購入者にとってリスクの高い『販売店優位』の仕組みの筆頭格です。
理由は記事で紹介していきます。
筆者のプロフィール↓
残価設定型ローンについて
通常のローンは車両の購入総額を分割払いで支払うものですが、
残価設定ローンは契約時に数年後の想定残存価値を支払い最終回に残し、
残価分を差し引いた金額を分割払いで支払っていく形のローンです。
購入者にとってのメリット
- 月々の支払を抑えられるため、通常買えないような高額な車を購入することができる
- 頭金が用意できない場合でも利用可能
- ローン支払い期間中の金利は通常より安いケースが多い
これだけ聞くとかなり優秀なローンに見えますね。
通常のローンと比べて同じローン期間でも、
設定された残価分ローン元本・金利が少なくなるため、
月々のローン支払費用を大幅に抑えることが可能です。
このメリットを強調し、ディーラーの営業マンは「頭金の出費や、月々の支払いが抑えられますよ!」という営業トークをします。
確かに、購入者にとって以下のようなメリットがあるのは事実です。
例えばローン支払い5年間で総額300万円の車両を購入する場合。
(※わかりやすいように金利・諸費用省いて説明します↓)
300万円÷60回=月々5万円
300万円-設定残存価値150万円=150万円÷60回=月々2.5万円
通常ローンと比較して月々およそ2.5万円もの差額が生まれます。
これにより、本来手持ちの予算に合わず購入が難しかった車を購入することが可能になります。
例えば本当は総額300万円のクラウンが欲しかったけれど、月々5万円支払うのが難しいため総額150万円の中古車に妥協しようとしていた方が、残価設定型のローンを利用することでクラウンを月々2.5万円の支払いで購入する・・・といったことが可能になります。
結果、予算を抑えて中古車を購入する予定だった方が、営業マンの「中古は壊れやすいので結果的に修理費用が多くかかるかもしれませんし、新しい車の方がおすすめですよ」という話術に乗り、
本来購入ができなかったはずの新車を購入する、といったことが起こります。
残価はローンの最終回に残ります。
この残価を消滅させる方法は大きく分けて3通りあります。
つまり、購入者は最終回に3つの選択を迫られる形になります。
この選択こそが残価設定型ローンの落とし穴であり、販売店がやたら勧めたがる原因になっています。
ローン完済後に迫られる3つの選択
ようやく完済した!という時に、下記のような選択を迫られます。
- 乗り続ける場合:残価分を返済し購入
- 乗り換える場合:車両を同じ販売店に下取に出す
- 今後乗らない場合:車両を返却する
ひとつひとつ説明していきます。
販売店にとって大きなメリットがあるのが②と③のケースです。
程度の良い車両が確実に手に入る上、②の場合は新しい車の販売も確定します。
ゆえに営業マンにおすすめされる可能性も高いです(販売店が得をするからです)
①乗り続ける場合:残価分を返済し購入
【残価分を一括で支払う場合】
例えば残価が100万円残った場合、ローンの最終回に100万円を支払えば、購入した車に乗り続けることが可能です。
購入時に頭金を用意せずに残価設定型ローンを一括払いする、という選択をとる方は、
『購入時は金銭的な余裕はなかったが、完済時に貯金ができている』
といった場合が殆どでしょう。
例えば結婚直後で急遽奥様を乗せる車が必要になったが、購入時は結婚式の費用等で手持ちに余裕がない・・一方で、3~5年後には生活が安定し余裕が生まれていた、といったケースですね。
こうした方にとっては、頭金や毎月支払額、支払金利を抑えることのできる残価設定型のローンを組むメリットは多少ながらあります。
しかしそれができる人は僅かでしょう。
殆どの方は3~5年後も『お子様が生まれる』『引っ越しをする』『コロナ等でボーナスが削減される』等生活の変化があり、残価を一括で支払うことはできません。
一括で支払う能力のない方は、残価分をローンを組んで支払う形になります。
【残価分をローンで支払う場合】
その場合、5年ローンで組んだはずが、残価分の分割払いで更に+数年分の金利を支払うことになる、といったことが発生します。
残価設定で安い金利で購入したはずが、延長分の金利は通常金利であるケースが多く、
その場合は分割手数料の総額も高額になる=購入者が損をすることになります。
例えば残価設定額が50%を超える人気車両の場合、
金利が高くなった分元々より返済額が高くなるケースが発生することすらあります。
金利分の支払いが勿体ない・月々の支払い額が増えてしまう・・・
といった説明から、販売店は②の、車両返却して新しい車に乗り換えを提案してきます。
②車両を同じ販売店に下取に出して新車に乗り換え
上記のようなケースで乗り換えを説明された場合、月々の支払いの難しさから車両を残価分で下取りに出して新しい車両を購入することになります。
まだ乗れる車を下取りに出して延々買い替える場合、その販売店に支払う総額は合計でとんでもない額になる可能性が高いですね。
更に、乗り換え・返却時に注意が必要なのが『車両の状態』です。
残価設定型ローンで注意が必要なのは、残価は『返済時の車両価値を逆算して設定されている』点です。
そのため、事故や距離超過等何らかの形で想定されていた車両価値よりも価値を下げてしまった場合は、
購入者が差額分を補填しなければならなくなります。
【設定距離を超過した場合】
走行距離の規定は販売店によって違いますが、1か月1,000km、超過1kmごとに10円かかるケースの場合、
5年間ローンで合計60,000kmを超えて走行した場合は超過金額の支払いが発生します。
例えば購入時にはそんなに距離に乗らないから大丈夫だろ、
と思っていたら、転勤で通勤距離が増えてしまい、高速走行が増えてしまった方は、距離超過分の支払いという大きな損失を生む形になります。
【事故等で車両価値が下がった場合】
特に事故は注意が必要です。
例えば停車中に追突されるなど修復が生じるような事故を起こされてしまった場合、車両保険を利用して見た目上は元に戻せますが、修復歴がついて損失した残価との差額分までは戻ってきません。
となると、残価設定型のローンを組んている方にとって、自損でない場合でも『事故に遭うこと自体が大きな損失』となります。
ローン期間中、車両の状態を気にして乗り続けるという大きなストレスを生みます。
上述したような完済時のリスクがあるにもかかわらず販売店が残価設定型のローンを勧めてくるのは、販売店にとって『高い確率で高年式の下取り車両が確実に市場価格で手に入る』という大きなメリットがあるからです。
ローンを組む場合、販売店の『おすすめ』営業トークに惑わされず、しっかりとローン完済時のリスクについて頭に入れた上で検討する必要があります。
③車両を返却する
購入時想定された価値を下回らない状態であれば、『設定された残価分=車両の価値』となり、そのまま契約が終わります。
高額な車両を『ローン期間の間だけレンタル』するようなイメージですね。
車が必要なくなったり、残価設定型ローンのスパイラルから抜け出したくなった場合は返却という選択をとる形になるかと思います。
この場合においても、通常のローンであれば購入店ではなく一括査定等で査定額が高い店に下取りに出していたはずのところを、確実に販売店に戻ってくるため販売店にとっては『確実に高年式の車両が市場価格で手に入る』大きなメリットがあります。
更に、残価設定型のローンを組んだ方は『車両価値の棄損』を気にして大切に車に乗る場合が多いです。
- 状態の良い車が手に入る
- 状態が悪い場合はその分の差額を受け取ることができる
身の丈に合わないローン=滞納リスクのある借金
車をローンで購入する方が多いのは、税金や諸費用を含めると確実に10万円を超える大きな買い物になる=手持ちの現金では足りない or 生活費用を残すと現金で購入できない方が多いからですね。
そのため、多少多めに金利を支払っても『ローン』という制度を使って自動車を購入する方が圧倒的に多いのが日本の現状です。
支払い総額が大きくても、毎月の支払額が小さいと感覚がマヒしがちです。
ですがちょっと待って下さい。
本当に今、高額車両を購入する必要性がありますか?
そのローン、『借金』をしているという自覚はありますか?
ローンは借金です。
借金の額は高額であればあるほど無駄な金利を支払うことになり、高額であればあるほど返済のリスクが高まります。
本当に今、数百万円の借金を背負う必要性がありますか?
この先の生活に変動が無いと言い切れますか?
手持ちの資産に対し明らかに高額な新車や、身の丈に合わない高額車両を購入させる『残価設定型ローン』は、購入者に大きなリスクを背負わせるローンです。
増え続ける残クレ取り扱い店
もはや自動車販売店の定番
販売店にとってはまさに打ち出の小槌ですから、取り扱い店は物凄い勢いで増えています。
取り扱うディーラー(一例)
また販売店ですと『新車が半額で乗れる』が標語のオニキスのワンナップシステムが有名です。
上記は一部ですので、ほぼ全ての大手が取り扱っている印象です。
上記のサイトでは、当記事で書いたような『購入デメリット』や『返済時のリスク』について書いていません。
販売時の説明も不十分である可能性があります。
当然、返済時にクレームになることもあるかと思いますが、ローンを組んだ場合、販売店は手数料と共に一括でローン会社から合計費用を受け取ることができます。費用の回収管理はローン会社が行うため、販売した後どうなろうが知ったこっちゃない、という販売店も多いのが現状です。
実は自動車だけじゃない。携帯ショップでも存在する残クレ
大手携帯キャリアも同じ仕組みを取り入れています。
こちらも、名前こそは違いますが、自動車の残価クレジットと仕組みは非常に似ています。
利用することで身の丈に合わないハイエンドモデルを大学生や主婦などに購入させ、定期的に買替を促進するプランです。
機種は~2万円代のローエンドモデル・5万円前後のミドルクラスモデル・8万円~のハイエンドモデルとありますが、店頭で目立つ形で置いてあるのは大抵がミドル~ハイエンドモデルになります。
自分がauで過去にGALAXYのA30(約2万円)を購入した際も、店員が勧めるのは高額機種ばかりで、
A30はあるか?と聞いたら店の奥から出してくる、といったことがありました。
高額機種の支払い額に『えっ・・・』となる方には、「実は半額で買えるんですよ」「2年で買い替えられる方は非常に多いです」と、残クレでの購入を勧めるわけですね。
結果、10万円のPCを購入するのには躊躇する層が、スマホはハイエンドモデルを分割で購入し2年でホイホイ買い替える・・・といったことが起こります。そのお金の使い方、大丈夫ですか?
まとめ
- 残価クレジット型ローンは、頭金・金利・月々の支払いを抑えられるメリットがある
- 上記のメリットから、本来よりもハイクラスな車に乗ることが可能になる
- ローン完済時に迫られる3つの選択がエグい
- 多くの場合販売店にとってメリットが大きく購入者にはリスクが大きい
まとめると以上のようになります。
自覚がないまま手持ちの現金よりも高額なローンを組まされる可能性がある『残価設定型ローン』は、多くの場合販売店にとってメリットが大きく、購入者にとってリスクが大きいローンになります。
利用者は、ローン=借金という自覚を持って、本当に高額な新車が必要かよく考えて利用する必要があります。
営業マンが勧める商品=販売店が儲かる商品でる可能性は非常に高いです。
これは、投資信託や不動産など、車に関わらず多くの仕組みに当てはまる理論ですね!
ちょっと面白い本がありました。金銭的知識は生きていく上で非常に重要です。
今後も営業経験を活かし定期的に取り上げていこうと思います。